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さいれんとないと
ATMからうまれATMとしてうまれた私は、午前7時から夜9時の間動いていました。
生きるためにお金を食べます。
他人が操作するボタンが私の意識。
私をよく操作するあの人の指が、いつの間にか拳になっていて、ガンガンと画面を殴ります。
その度に私はフリーズしてしまいますが、「叩けば治る」と言われまた殴られるので、痛みに耐え、拳の操作するとおりに動きます。
ショートしないよう、涙を我慢して。
ある日、罵倒が画面にぶつかり、操作画面にヒビが入りました。
歪んだ視界にうつるのは、私より大きなATMがあの人の拳にかじりついている光景。
あのATMは私と違い、いつもお金を吐き出していました。
ガブ、ガブ、ガブ、という音がぶつかるたびに、私の画面のヒビは増えます。
あの人の拳が溶けそうになった時、とうとう画面は割れてしまいました。
私はそこから必死に手を伸ばして、やめて、いじめないで、と叫びます。
あの人の拳は痛いです。
痛いですが、あの拳がないと私は誰にも操作されないんです。
なので、必死に叫びました。
短い腕も小さな声も、あのATMに届きませんでしたが、暴れすぎたためにフリーズしたようで、全く動かなくなり、私と拳はどうにか助かりました。
それから私は拳を守るために、ATMを飛び出し、人間として過ごすようになりました。
私の意識は自分で操作できますが、まだ操作方法がよくわからないので、拳に教えてもらいます。
人間になったので、生きるために人と同じ食事を摂ります。
ですが、もともとはATMなので、お金も食べ、胃の中で消化し、不純物を排出し、水に流します。
その度に私は怯えました。あの水に私も吸い込まれるのではないかと。
私はその頃から、本当は自分自身が不純物なのだと、無意識に感じていたのだと思います。
人間になって数年がたちました。
操作方法はある程度理解しています。
ですが、小さい手ではうまくボタンを押せないので、手のひらで叩いて操作します。
勿論、あの拳で操作されることもあります。
あの大きなATMが、あの拳や私にかじりついてくるときも、あります。
でも大丈夫です。私は人間です。
画面が割れる心配も、ショートしないよう涙を我慢する必要もありません。
ATMとしてうまれた私は、人間の姿になって人間として生きても、人間の世界になじめませんでした。
それを見かねた拳は、私の口に教科書を差し出します。
その教科書は、このなじめない世界から抜け出すための切符にみえて、私は嬉しくて沢山口に入れます。
相変わらずお金も食事も沢山摂りますし、不純物を水に流す度に怯えていますが、お腹がいっぱいになっても、苦しくても、吐き気を我慢して教科書を胃につめこみます。
ですが、そのせいで、身体の中に教科書がつまってしまい、うまく動けなくなりました。
拳は私を叩きませんでした。
私はベッドの中で、小さい手のひらで精一杯自分のお腹を叩き、壊れた自分をなおそうとしました。
数年後。
私の身体は、叩いたときにできた腫れと、沢山摂った食事とお金からできた脂肪で、大きくなっていました。
教科書が詰まって胃が破裂したせいか、どれだけ口にいれても私は満たされません。
どこからか聴こえた音を、沢山口に放り込んでからっぽな私をごまかし、痛みと脂肪で動かない身体をふるわせます。
時には誰かの笑い声と大声を沢山食べては吐き出します。
あの大きなATMは、ただ静かにお金を吐き出していました。
しばらく、そう過ごしていました。
寂しい過ごし方かもしれませんが、今となっては幸せな日々だったと思います。
大きなATMが吐き出したお金は、小さな幸せの中に積もり積もって、私と拳の生活を壊しました。
響く罵倒。
響く暴言。
響くエラー音。
私はもうATMじゃ無いのに、また視界があの時のようにひび割れて、目の前ではまた拳が大きなATMにかじりつかれ、溶け出しています。
ひび割れた目を見開いて、私にも噛み付いてくるATMの画面に必死になって手を伸ばして、そこに浮かんでいる数字を押します。
1、1、0。
罵倒も、暴言も、エラー音も止み、どろどろ、という拳と私が溶けかけている音が辺りに響きます。
しばらくたって聞こえて来たサイレンの音で、何かが粉々に壊れてしまいました。
何かが割れて、地面に落ちてしまう音を聞いた私は、あの日飛び出した、壊れたATMにひきこもりました。
ごめんなさいと、あちこち凹んでいるこの機械に涙を零して。
早く終わりますようにと、粉々になった画面を人差し指で押して。
あの時と似たような、サイレンが鳴り響いたあとの静かな夜、ヒビ割れた画面はピカッと光り、私の夢を映し出します。
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